2012年7月21日土曜日

体外受精・顕微授精は最後の手段なのでしょうか?

皆さん、体外受精・顕微授精は「最後の手段」と考えていませんか?
答えは、、、、、最後の手段とは考えずに、不妊治療の一手段と考えて下さい。

本日、体外受精を他院で1回、当院で1回(妊娠後流産)受けた方で、自然妊娠された方がいらっしゃいました。このようなことは当クリニックでも時々あります。
当クリニックでは、体外受精の予定の方でも卵管造影検査をお勧めしています。この理由は二つあります。一つは、重症の卵管水腫があると体外受精での成績も1/2~1/3に低下します。したがって卵管水腫がないかどうかを調べる必要があると考えているからです。もう一つは、最も多い不妊原因は卵管因子です。しかし、卵管造影検査は重要なのですが、しばしば卵管造影検査を受けずに体外受精に進んでいる方がおいでなのです。したがって、少しでも妊娠の可能性をあげるために、体外受精を希望される方にも卵管造影検査をお勧めしています。

皆さん、不妊治療において、体外受精は最終手段と考えていませんか?
体外受精は、「不妊治療の最後の手段」ではなく「不妊治療の一つの治療法」と考えて頂く方がよいでしょう。

この考えには、いくつかの解説が必要です。

「体外受精は最後の手段」と考えて、「体外受精を受けたらば、その後がない」ので、体外受精を受けることをためらう方が時々いらっしゃいます。そのために、体外受精が必要な状況にもかかわらず、その時期を逸してしまう方がいらっしゃるのです。体外受精が本当に必要な方は、早めに受ける事をお勧め致します。ただし、誤解を招かないように、追加させて頂きますが、体外受精を強力にお勧めしているのではありません。最近は安易に体外受精に進みすぎる事がしばしば見受けられると思っています。むしろもっと一般不妊治療をしっかりとしてから、機を逸することなく体外受精に進むことをお勧めしているのです。(話がどんどん長くなってしまうのが私の悪い習慣です)

一方、体外受精を受けた場合には、「体外受精以外の方法では妊娠できる可能性がほとんどない」と考えて、妊娠の手段を体外受精しか考えられない方、は多くいらっしゃいます。しかし、卵管が通っていて、精子がいるならば妊娠する可能性はあるのです。少しでも妊娠の可能性を高めるならば、体外受精だけに(決めつけて)頼るのではなく、タイミング・卵管造影検査・人工授精などの方法でも妊娠の可能性を追求した方が良いのではないでしょうか。体外受精を過大評価することにより、それ以外の妊娠の可能性を放棄して、ご自身で妊娠の可能性を狭めてしまっている方はたくさんいらっしゃいます。
現在では、体外受精や顕微授精の基本的な方法はほぼ確立しており、(単に)体外受精をすること自体は難しいことではありません。ただし、良い成績を出すこと自体は簡単ではなく、常に勉強・工夫が必要なのです。
ここからは、各医師の、考え方・哲学になっていくのかもしれません。
私は、「体外受精/顕微授精を最後の手段」とは考えずに、「体外受精も不妊治療の一手段」と考えて、体外受精を受けている方にも、少しでも妊娠の可能性を高めるために、体外受精以外での妊娠の可能性も常に追求するように説明しています。もちろん、体外受精/顕微授精しか手段のない方はいらっしゃいますので、その方には最高の体外受精技術を提供できる様に努力しています。

「体外受精を最後の手段と考えて、ご自身の妊娠の可能性を狭める」のではなく、「必要ならばためらわずに受け、一方、体外受精以外の方法でも妊娠の可能性をつねに追求していく」ことが、皆さんご自身にとっての妊娠の可能性が高い方法ではないでしょうか。

皆さんも、不妊治療を一つの手段のみに頼るのではなく、様々な可能性を利用して、少しでも良い成績を得られるように考えてみては如何でしょうか。

2012年7月17日火曜日

禁欲期間と精子の質

本日は、禁欲期間と精子の質について、ある文献を目にしましたので、お伝え致します。
当クリニックでは、従来より、「性交渉は多ければ多いほど妊娠率が高い。実際には毎日性交渉があるカップルが最も妊娠率が高い。」と、お話をしています。「性交渉交渉も持ちすぎると、精子が薄くなって妊娠率が下がる。」のは間違いであり、むしろ「古い精子などためておいても妊娠率は上がらない。」と考えて頂いた方が良いのです。「精子の濃さ」と「妊娠しやすさ」を単純に比例すると考えるのは間違いなのです。
今回の論文は、この考えを支持する結果でした。
内容は、以下のごとくです。

禁欲期間が短いほうが精子のDNA損傷率が低くなる


男性の禁欲期間が短く、選別した精子のほうが、DNA損傷率が低いことを、スペインのグループが報告しました。
96時間(4日間)の禁欲の後と、その後24時間毎に射精した96時間後のDNA損傷率を比較した。
96時間の禁欲後の平均の精子DNA損傷率は22.2%であったのに対して、24時間毎に射精した96時間後は17.0%と、DNA損傷率が25%低下した。

また、密度勾配法(パーコール法:当クリニックでも採用)で選別した精子では、96時間の禁欲の後よりも、その3時間後に射精したほうが48%もDNA損傷率が低下していた。

男性の禁欲期間が短く、そして、密度勾配遠心分離法によって選別した精子のほうがDNA損傷率が低いことがわかりました。

従来、自然妊娠でも、人工授精や体外受精に用いる場合でも、3~4日くらいの禁欲期間を設けるほうが妊娠に有利であるとしばしば聞きますが、禁欲期間が短いほうがDNAの損傷率が低いこと、人工授精でも洗浄・分離した方良いことがこの研究でも示されました。
皆さん、性交渉はどんどん持って頂く方が、精子も良いのですよ。禁欲期間は特にいらないのです。

2012年7月13日金曜日

説明されない不妊治療のリスク(2012/7/12NHKニュースより)

本日2012.7.12朝7時のNHKニュースで、「説明されない不妊治療のリスク」についての報道がありました。本日患者さんから教えて頂いたので、朝のニュースを見直してみて、感想を述べたいと思います。確かに不妊治療でのリスクについては、現状では十分に伝わっていないと感じます。ただ、その原因が主に医療提供者側にあるかのような印象をもたれるのは非常に残念です。当事者としては、医療提供者側の情報の積極的な開示とともに、この報道を機会に、患者さんの注意も喚起されればと考えます。
まず最初に、不妊治療(特に体外受精)についての前提をお伝えします。
体外受精がおこなわれておよそ30年たちます。非常に新しい分野であり、いまだによく分かっていないことはたくさんあります。体外受精で生まれた方は、最高齢30歳程度であり、それ以上の年齢の方は世の中に存在しません。したがって安全性については、30年間のデータしか存在しないのです
一般的にも、新技術や新薬などでは安全性に関しては確立されてはいないのです。したがって体外受精などの技術に関しては、すべてのリスクが説明することは不可能であることをご理解頂く必要があるのです。
当クリニックのパンフレットにも書いていますが、30年間のデータしか存在せず、安全性に関しては確立していないのです。

医療従事者側からの感想を述べます。
まず、日本産科婦人科学会では、体外受精をおこなう方に対するパンフレットには、体外受精のリスクについての説明をするように、各施設を具体的に指導しています。したがって、皆さんが各施設から渡されているパンフレットには、必ずリスクについての記載があるはずです。今回を機会に,再度パンフレットを読み直してみて下さい。
「ニュースでは、胚盤胞の一卵性双胎のリスクは自然妊娠の3倍との説明でした。3倍とのリスクは、「胚盤胞での一卵性双胎は、胚盤胞による妊娠者の1%におこります」と言うことです。リスクの倍数を言うならば、その発生頻度も説明して欲しいと思います。あたかもたくさんおこるような漠然とした伝え方は、大きな混乱を招きます。
これが分かってきたのは、ニュースでも言われたように、「最近の事」なのです。したがって、今回の例のように、まだそのリスクが一般的な事となっていない状況では、一卵性双胎の可能性の説明がされていない状況が、医療提供者側の怠慢のように受け取られるのは非常に残念なことです。
なお、最近、当クリニックでも胚盤胞1個移植で、13年間で初めて、一卵性三胎が発生しました。発生頻度は0.1%未満と推測されます。このようなこともおこり得るのですね。例えば、このことを皆さんに説明することはおそらく少ないでしょう。すべてのことが説明される、ことは実際には困難なのです。

体外受精の一般的なリスク
皆さんに知っておいて頂きたい体外受精のリスクを、いくつかあげてみましょう。
1)体外受精での出生された方は、せいぜい30歳であり、生殖機能や老化の進行に関してのデータは30年間のみであり、それ以上のデータは存在しません。したがって、将来にわたっての安全性のデータは存在しないのです。それを前提に体外受精を受ける必要があります。今回の胚盤胞の多胎リスク情報も、「最近分かってきたこと」であり、今後もこのように新たに分かることは出てくるでしょう。
2)体外受精での出生児には、自然妊娠と比べて奇形の発生などはほぼ同じか、若干増加するとの報告が大勢を占めます。したがって、20歳までの短期的には体外受精は大きな問題はないとされます。
3)顕微授精は、せいぜい15年間のデータしか存在しません。奇形率や染色体異常は、自然妊娠や体外受精妊娠に比較して、1.5~2倍程度(1~2%程度の発生率)に増加します。20歳以上の顕微授精の安全性のデータは存在しません。
4)多胎妊娠は、双胎では単胎の4~5倍の事故(流産・早産・奇形・胎児死亡・脳性麻痺など)発生率、3胎では10倍の事故発生率に上昇します。日本産科婦人科学会では、移植胚は原則1個であり、多くても2個までと通達しています。このリスクをご理解下さい。双子をご希望する方が少なくありませんが、そのリスクについて知っている方は少ないのです。医学的には一人ずつ妊娠することが最も良いのです。不妊治療医師も出産までの事を考えて治療しています。我々の最終目標は、「妊娠」ではなく、「無事に元気なお子さんを抱く」事なのです。この点は、治療を受ける皆さんにも理解して頂きたいと思います。
5)高齢での妊娠(特に40歳以上)は、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)、染色体異常児の発生率の上昇、母体の脳出血・死亡、などのリスクが急上昇します。高齢での妊娠・出産は命がけなのです。これらは前兆がなく突然起こる事が多く、予防はとても困難なのです。

いずれにしても、新しい技術を受けるということは、リスクについてはまだ曖昧な点が新しいだけ多くあることをご理解頂きたいと思います。
ニュースでも、患者側も妊娠率については興味があるが、リスクへを知ろうとはしない傾向がある、旨の話もありました。
これを機会に、医療提供者側も新しい情報を積極的に発信し、受ける患者さん側もリスクにも目を向けていく必要があるでしょう。

昨年の妊娠数(再掲)と千葉県の調査(読売新聞)の分析

当クリニックの2011年の総妊娠数は、4月7日にすでにブログでも報告致しましたが768件でした。

5月6日に読売新聞の不妊治療の調査結果が掲載されました。
高橋ウイメンズクリニックは掲載されませんでしたが、多くの方からお問い合わせを頂きましたので、今回、当クリニックの2011年の成績をお知らせ致します。今回、当クリニックが掲載されなかった理由は読売新聞の求めるデータと当クリニックの回答が食い違っていたことのようです。しかし、全国の回収率は48%であり、調査の半数は回答していないようです。最も多いとされる新宿のKレディスクリニック、新橋Yクリニック、東京Fクリニックなど、有数の施設も掲載されていません。今回の全国調査は必ずしも正確なデータではありませんので、当クリニックのデータも含め参考程度にお考え下さい。

高橋ウイメンズクリニック
           2011年
総妊娠数             768件

生殖補助医療(ART)妊娠   414件 (54%)          

一般不妊治療妊娠数      354件 (46%)


年間、768件の妊娠数は、日本大震災の影響もあり、例年(900件前後の妊娠数)よりも少なくなりました。
ART妊娠数が、一般不妊治療を抜いています。最近の体外受精の増加を物語っています。


生殖補助医療(ART)妊娠内訳                

体外受精(採卵周期)妊娠   147件    36% 

    
顕微授精(採卵周期)妊娠   49件     12% 

凍結融解胚移植妊娠      218件    53% 


採卵周期の胚移植よりも、凍結融解胚移植の方が、多くなっていますが、これは全国的な傾向だと思います。
この件数は知る限りにおいて千葉県ではトップの実績数です。ただし、先に記載しましたが、数字は単に目安にしか過ぎません。皆さん一人一人に最も良い施設は、数字は参考程度に考えて、ご自身が信頼の置ける医師やスタッフに会えるかどうかで考えてみては如何でしょう。

今回は、当クリニックの簡単な成績を報告致しました。
詳細に検討したデータは次の機会にお示し致します。

何とか、大震災の影響を凌いできた1年でしたが、これも当クリニックを信頼して来院して下さった皆さんや職員の支えによると考えています。支えて下さった皆さんに御礼申し上げます。
私の存在意義は、生まれ育った地元千葉県において不妊治療をできるだけ長く担っていくことにあると考えています。自分の人生をかけた仕事(幸いにも迷わずに人生をかけられる仕事を得られたこと自体が幸福であると考えています)ですので、今後も信頼の置ける医療技術(大切なのは技術だけではないとは思いますが)を提供して参りたいと思います。
高橋ウイメンズクリニックを今後もよろしくお願い致します。
高橋ウイメンズクリニック
院長 高橋敬一